「眼も耳も」のムズカシさ…
2008 / 06 / 20 ( Fri ) 先週、梅雨の晴れ間ということで江戸川へ。ここのサイクリングロードを自転車で走るのは久しぶりです。昨夏愛車を盗られてしまい、一年近くもクヨクヨしていたのですが、意を決して車種違いを再購入。その試走を…と、夜明けと共に家を出ました。
川に出ると対岸にカッコウの鳴き声。遠いな…と思ったものの、上流に向かってしばらく走っても声の距離感が変わらない。どうやら私と並行して移動しているようです。そのうちこちらの岸にも渡ってきました。 川に沿ってほぼ同じ区間を上流←→下流、此岸←→彼岸…と行ったり来たりしているらしいことにようやく気づき、リュックに入れてきたレコーダーとマイクをもぞもぞ取りだして待つこと三十分。近くの木のてっぺんにやってきてくれました。 午前五時頃とは云え、すでに対岸からは車ノイズが大きく、上流側にはJRの鉄橋もある。ただ、直近の道路からの騒音は土手が遮ってくれているおかげで、マイクの振り方によってはノイズを軽減できそう。そのsweet spotを探りつつ、じりじりと移動…。 そこそこの場所が確保できたあたりで鳴きはじめました。しかし「間に合った…」と安堵したのもつかの間、鳴き声が緊張感を増したと思ったら、カラスか何かと戦闘モードに入ったらしく、すぐに飛び去ってしまったカッコウ…。 (click↓して再生=20秒) 江戸川河川敷にてカッコウ 空中戦みたいな追いかけっこをやっていたようでした。でも、飛び去る二羽のシルエットがチラっと見えただけで、その争う姿を観察することは叶わず。ほぼ頭上での出来事だったのに〜。 だいたいにおいて私の眼は節穴です。ましてや録音中は尚更それが顕著でして、ヘッドフォンの音を一心不乱に聴いているだけ。レコーダーのレベルメーターだけをニラんでいるのではなく、もっと録音対象をきちんと眼で見なければダメだな…と思うのですが、私にはこれがとてもムズカシイ。視と聴をうまく並立させられません。 果たして自覚と訓練次第で改善されるものなのでしょうか。 いずれにせよ今後の課題です。 P.S. カッコウが飛び去ったあとに「うるさ〜い」と、おじさんの声。怒鳴っているのにちょっとのどかで微笑ましい。ただ、何がうるさいんだろう…カラスが?カッコウが??まさかカラスの威を借りて声を荒げるオオヨシキリを叱りつけているのか???と不思議に思っていたのですが、今聴いてみると土手の向こうで犬が鳴いていたんですね…。 |
『姿三四郎』ハスの花が開く音の不思議
2008 / 06 / 13 ( Fri ) 黒澤明監督が『姿三四郎』(1943年・東宝)の中で「蓮の開花する音」を入れた…というのは、知ってる人は知ってる、知らない人は全然知らない話です。
この作品が一月ほど前でしたか、BSだかCSだかでやっていたので久しぶりの鑑賞。以前観たとき、肝心な「蓮の開花音」がよく分からなかったので今回は耳をかっぽじって聴こう…と。TVのスピーカーは介さず、デジタルのままミキサーに入れた音をヘッドフォンでモニターしました。 藤田進演じる姿三四郎がセンセイ(大河内伝次郎)にその蛮勇を戒められ、池の中で一晩苦悩し、夜明けと共に悟りを開く…というシーンに、この蓮の開花が、そして伝説の効果音が当たっている… はずなのですが。 えー、結論から言いますと、今回もよく分かりませんでした。 古い作品ですのでフィルムノイズはバチバチ言っています。でも、他の小さな効果音の聞こえ方からすると、黒澤明がこれだけ意図的に狙って入れたはずの音が雑音に埋もれる…ということがあり得るだろうか…? 木村哲人(*1)という効果マンさんが著書の中で、この『姿三四郎』に触れています。(*2) 「小学生のわたしは巡回映画の、広場に立てられた白い布のスクリーンで見た記憶がある。 問題のハスの開花は映写機の回転音に消されて聞こえなかった。 半ば伝説になったハスの音は、先輩の録音技師から何度も聞かされた。 わたしはいつか本物のハスの開花を録音しようと思っていた。」 (『音を作る』(筑摩書房)215ページより) ここで木村さんが「先輩技師から何度も聞かされた」のは、映画からコピーした開花音そのものなのか、それとも「話」だったのかが分かりません。 個人的にはどうもしっくりこないのです。引っかかるのは以下の2点。 1:公開当時でさえ録音・再生技術が未熟(=新作時すでに音が不明瞭)だったのに、 黒澤明が「聞こえるか聞こえないか」程度の音量で効果音を入れたとは考えにくい 2:その気になればリバイバル上映その他で何度も観る機会があるはずの黒澤映画。 あらゆる音を録り、作り、効果音研究に尋常ならざる情熱を生涯燃やし続けた 木村哲人さんが、小学生の時に聞き損なった「伝説の音」をその後一度も 再確認しなかったとは考えにくい (何度もお聴きになったけどやっぱり分からなかったのではなかろうか…) 黒澤明の新作は当時から他の映画人(現場技術者)の耳目を集めていて、たとえば録音のこと、効果音のことなどは東宝も箝口令を敷いていたのだとか。こういう事情もあって、黒澤映画の製作技術にまつわるうわさ話はかなりの尾ひれがついて広がった…と云います。 果たして、公開当時にはかすかに聞こえていたハスの開花音が、時代を経て音が劣化したためにノイズに埋もれてしまった…のでしょうか。もしかしてもしかしたら、狭い業界で(無自覚のうちに)作られた伝説で、初めからそんな音はついていなかった、ということは…うーん、やっぱりあり得ないかな…。 この作品には「音響効果」のスタッフクレジットがありません。1942年、東宝に入られた三縄一郎さん(*3)かもしれません、違うかもしれません。 ちなみに1965年の『姿三四郎』(宝塚映画・黒澤プロダクション製作)には、確かに「たんっ!」「とんっ!」と聞こえる、蓮の花の開く音が何発も入っています。この作品の監督は内川清一郎。黒澤明は製作と脚本に名を連ねています。三四郎役は加山雄三。 (click↓して再生=27秒) こっちは確かに聞こえる1965年版『姿三四郎』 (*1)三谷幸喜の映画初監督作品『ラヂオの時間』で藤村俊二扮する「引退した効果マン」のモデルとなっているのが木村哲人(きむらのりと)さん。「効果音監修」として木村さんの名前がスタッフロールにクレジットされています。木村さんとそのご著書については、またいずれ何度も取り上げたいトピックだらけ…です。 (*2)『音を作る』で、木村さんは『姿三四郎』を1945年公開映画…と書いていらっしゃいます。調べてみると1945年に作られたのは『続姿三四郎』となっていまして、こちらにはハスの花が出てくるシーンはなかったとおもうのですが…。 (*3)数々の「歴史的な効果音」を作られた方。詳しくは機会あらためて。一般にはゴジラの鳴き声を作った人…として有名でしょうか。『ゴジラ』(本多猪四郎監督1954年・東宝) |
蒲谷鶴彦さんの追悼DVD
2008 / 06 / 09 ( Mon ) 2007年1月15日、蒲谷鶴彦さんという不世出の偉人が永い眠りにつかれました。享年八十歳。
蒲谷先生が野鳥録音とそれに伴う野鳥研究の分野に残された足跡は、空前絶後の偉業…と云っても決して過言ではありません。 ・弟、芳比古さんが自作した録音機で軽井沢の野鳥録音を始めたのが1951年頃。 ・文化放送開局(1952)の翌年スタートしたラジオ番組「朝の小鳥」を 以後55年間、14000回以上に渡り素材録音・構成。(原稿も蒲谷先生の手によるもの) ・生涯に録音した野鳥=世界77ヶ国、1000種類以上。 いったい日本はもとより世界中をみても、これほど「音楽以外の音」を録り続けた人が他にいるのでしょうか…。蒲谷鶴彦さんの録音史はそのまま磁気テープ野外録音の歴史でもあります。 まだまだこれだけではありません。知れば知るほどビックリすることだらけでして…。 生涯野山を駆けめぐった蒲谷先生、さぞかしのタフガイだったに違いない…と思いきや、幼少の頃より病弱、体重35kgほどで一番太った時でさえ40kgだった…。 14000回超に及ぶ文化放送「朝の小鳥」の放送は一度も穴をあけることなく一人で録音・編集・原稿書きを続けた…。しかもこの長寿番組、1959年〜1992年の33年間は毎日オンエアーだったというのですから、もはや絶句するしかありません。 それなのに、私はこの蒲谷先生のお名前のみ記憶していただけで、詳しいこと何一つ知らずにこれまで四十年オメオメと生き恥さらしてきたのでした。野鳥ワールドの知識と情報に疎かったばかりに…。悔やんでも悔やみきれません。 ただ幸いなことに、日光野鳥研究会という団体が蒲谷先生のご講演を音声ファイルで公開してくれています。巨星墜ちたいま、野鳥録音界の星である松田道生さんとの対談などもアップされていて、私のような者にとっては宝石のような録音記録。(「朝の小鳥」の放送は松田道生さんが蒲谷先生を引き継いでいらっしゃるようです。) 講演が聴けるサイトはコチラ→日光野鳥研究会 先生ご自身は「私は話すのがあまり上手でなくて…」などとおっしゃっているのですが、とんでもない。往年の天才落語家、志ん生の語り口をどこか彷彿とさせるような飄逸を漂わせつつ、志ん生をもっともっと優しくしたような蒲谷先生のお話しぶりに私は一発でノックアウト。誤解を恐れずに云えば、本当の道楽を生涯徹底してやり抜いた男の声…を感じました。 このことでより一層、ご存命中に直接このお声を聴く機会があったなら…とアタマを抱えたのですが、まあいずれにせよ、この録音を繰り返し聴きつつなぐさめとしていたのです。 ところがなんと…。 『日本でいちばん鳥を聴いた男 蒲谷鶴彦さんがいく』 という追悼DVDが完成、実費頒布してくださる…というではないですか! ![]() さっそく注文。迅速なお手配を戴き、さっそく到着、さっそく鑑賞。 素晴らしい…。 私の深い後悔が癒される思いでした。 過度の演出を排除したこのレクイエム作品は、 ・ナレーション無し ・白黒写真のスライドショー ・音は鳥の鳴き声と最小限の音楽のみ という構成ながら、立派なドキュメンタリー映画。 「これらの鳴き声を録ったマイクの後ろには、ヘッドフォンをかけた 体重35kgの蒲谷鶴彦が居る…」 と、先生の気配にさえ耳を澄ましつつ、あっという間の二十数分間でした。 1951年7月19日、前述の自作録音機を携え、東京は御岳山で録音した(当時ブッポーソーと誤称されていた)コノハズクの鳴き声も聴くことが出来てもう胸はドキドキ…。 御岳神社の電柱から盗電(!)して行われたというこのフィールドレコーディングは 「あれほどマイクの近くでコノハズクが鳴いたことは この後五十年、一度もありませんでした…。」 と蒲谷先生自身が回想する伝説の録音です…。 このDVDはバード・フォト・アーカイブスの塚本洋三さんという、 蒲谷先生とおつきあいの長かった方がほぼ自主制作のような形で お作りになったもの。 作品の入手先その他を以下に記しておきます。 商品サイトはコチラ↓ バード・フォト・アーカイブスのBPAショップ DVD『日本でいちばん鳥を聴いた男 蒲谷鶴彦さんがいく』 野鳥録音■蒲谷鶴彦 音楽■岸本寿男 制作協力■スワロフスキー・オプティック 制作・著作■有)バード・フォト・アーカイブス 約27分 DVD-R ■頒布価格税込¥1,500(送料別) 「ボクが死んだら、どこか録音に行っているとでも思ってほしい。」 蒲谷鶴彦先生が残した言葉です。 |
セッカの鳴き声--中低域の補正--
2008 / 06 / 07 ( Sat ) 前回、セッカの鳴き声録音から低音ノイズを除去。しかしそのせいでヘッドフォンから漏れてくる音のようなシャカシャカ・サウンドになっちゃいました。
ローカット(低域を切ること)でノイズを消すという手法は随分古くから行われていたようです。たとえば70年代に出版された、アマチュア生録マニア向けのHowto本にもすでにこのテクニックが出てきます。さらに、 「ノイズをカットしただけじゃ不十分だヨ。ここにせせらぎやさざ波の音を加えてみよう。グッとゴキゲンなサウンドになること間違いなし!」 などとも。雑音の除去で失われた低音を補う必要性についても触れられているわけです。ここで、あらたに加えるべき音として「せせらぎ・さざ波」が推奨されているのは、ヒーリング効果がアップすること以外にも理由がありそうです。 都市部近くで録った音というのは、低域をどれだけカットしても高い音域に「シャーっ」というノイズが残ってしまう。こういう時、小川の流れや静かな波の音は、うまい具合にこの「シャーっ」の部分をごまかしてくれる便利な音素材なんでしょう。 ただ、清流や波の音など別の具体音を持ってきて足す…というのは、もはや積極的な「演出」の分野に踏み込んでいます。失われた音域を補正し帯域バランスを整える作業としては明らかにやりすぎの感が否めません。 では何を足すか…。このような「補正用のサウンド」としては、セミや秋の虫が鳴いてしまっているものはもちろんですが、他の鳥が鳴いている録音も使いにくいと感じます。私のように野鳥の知識に浅い者だと、 「この鳥がこの季節にこの鳥の近くで鳴いているはずはない…」 という非常識な音を組み上げてしまう危険性もあるからです。 というわけで個人的にはこういう時、冬山で録った音などをMIXしています。できるだけ静かな、しかも中低域に適度な「サーっ」という自然のグランドノイズを含んだ音で、欠落した帯域を補えないか…と。 今回は、セッカ録音と同じ季節(ほぼ同じ時間帯)に録った比較的静かな里山の音を使ってみました。小さなスピーカーでも分かり易いように大きめのレベルで足しています。前回アップしたサンプルの冒頭部分(=録ったままの音)と、下のファイルの後半部分とを聴き較べてみてください。いかがでしょうか…。 (click↓して再生=16秒) セッカの鳴き声_中低域の補正 いずれにせよ、あくまでもノイズレスな録り音を目指すことこそがフィールドレコーディングの正道。 撮影と録音を同時に行わねばならない、条件の厳しいロケ現場でもない限り、ポストプロダクションでのローカットや音質補正はやむえず行う小細工に過ぎない…と思っています。 |
セッカの鳴き声--低音ノイズの除去--
2008 / 06 / 05 ( Thu ) セッカという、ちっちゃくてかわいらしい鳥がいます。
歳時記では夏の鳥とされながら「雪加」という字を当てる。 ふむふむ、なかなかの情緒漂う野鳥…。 ところが。このセッカはカタカナ表記がぴったりの まぁ落ち着きのない鳥でして…。 ひょいっ、ひょいっと上がったり下がったりしながら、とにかくせわしなく飛び回るのです。しかも飛びながら鳴く。広〜い田圃のあっちからこっちまで「ヒッ、ヒッ…」「チャッ、チャッ」と鳴きながら行ったり来たり。それゆえ身近にいながら録音がムズカシイ野鳥のひとつではないでしょうか。 とても通りの良い声ですので、鳴き声を録るだけなら簡単。でも指向性マイクの正面軸上できちんと捉えようとすると、手持ちマイクで飛ぶ鳥を追いかけるしかありません…。 東京郊外のたんぼ。朝の四時過ぎで周囲は静かでしたが、1km離れたところに国道。そちらにマイクを向ける形で録ればゴーっというノイズが入ります。この時は移動しつつ一時間粘りましたがダメ。どうしても国道のノイズを背負った方向でしかセッカは飛んで(鳴いて)くれず、時間切れでした。 録音したセッカ、サウンドスペクトログラム ![]() さて、こうしてノイズの乗った、このままでは使い物にならない録音ですが、距離の遠い自動車ノイズは低域に音が集まっています。これに対してセッカの鳴き声はかなり高い。低音を切ってもさほど支障がなさそうです。で、セッカのNG録音を素材にして「ノイズを切る」実験。 具体的には、1800Hzより低い部分をカット…という極端な処理を施しました。通常500Hz〜せいぜい1000Hz以下を切るのがローカットと呼ばれる手法。これほど大げさに切ることはまずありません。バックグラウンドノイズが、途中からストンと削れ落ちる感じを確かめてみてください。 (click↓して再生=16秒) セッカの鳴き声--低音カット これでほぼセッカの鳴き声だけが残った形になります。(後ろでオオヨシキリが鳴いてる…。) しかし、これだけ乱暴に低域を切ったので当然ですが、なんだか薄っぺら〜い音になってしまいました。どうしたらいいのか…。 次回、"The lost treasures"=失われた低域をこの手に取り戻すべく、さらなる実験を。 |
スズメの交尾
2008 / 06 / 01 ( Sun ) 隣家の屋根にてスズメが交尾しておりました。
とても小さく優しげな声で「口説く」のですね…。初めて聴きました。 最初に強く(というか普通の声量で)鳴いて、そのあと小さく「ぴぴぴぴっ…」と言う声になったところが交尾直前です。もっと綺麗に録れれば良かったのですが。 (click↓して再生=22秒) 録られているとも知らずに…。 ウグイスの一回目の鳴き声の前後でささやいて、遠くをバイクが通過するあたりでメスの上にちょこんと乗っかって、それで二回目の「ホーホケキョ」のあたりではもう終わっている…というカンジ。何度も、この乗ったり降りたりを繰り返していました。 それにしてもウグイスの声は大きい。位置関係で云うと、ウグイスはスズメの4〜50m奥で鳴いているというのに…。ガンマイクで録ったせいもあります。 ガンマイクの功罪についてはまたいずれ機会をあらためて〜。 |
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