センターキャンセル・テクノロジー
2008 / 08 / 19 ( Tue )
市販の音楽CDから(疑似)カラオケを作る方法として知られている「センターキャンセル」という技術。

歌=メインボーカルというのは、たいてい「二つのスピーカーのど真ん中」から聞こえるようになっています。センターキャンセルとは読んで字の如く、真ん中にある音だけをキャンセルする。つまり左右にステレオで広げられた伴奏は残して歌だけを消す(小さくする)わけです。

具体的には「ステレオ音声の片方のチャンネルだけを逆相にする」ことでこれが実現できるのですが、理屈は省略しましょう。今はこの音響処理をパソコン上で行うことができます。

今回は、このセンターキャンセルの応用実験です。

今まさに北京オリンピック開催中ですが、スポーツ中継を観ていてしばしば感じるのは
「アナウンサーと解説者のお喋り無しで観戦したいな〜」
ということ。特に民放の扇動的な実況アナウンスがとても苦手です。

一方、野球中継などで
「副音声では球場の音のみをお送りしています」
という放送がありまして、あれは実に素晴らしいと思います。でも全てのスポーツ中継に採用されているスタイルではありません。

そもそも、アナウンサーと解説者はそれぞれ一本ずつのマイクで喋っていて、この音声はモノラルにまとめられているはず。これに加えて複数のマイクからの、球場や競技場の雰囲気を伝える音がステレオでMIXされている。だとしたら、これもセンターキャンセルでアナウンスの音量だけを下げることができるのではなかろうか…。

まあ、そんなことを考えたわけです。
音楽CDの例と対照させるならば、アナウンスがボーカル、スタジアムの雰囲気音が伴奏に当たるでしょうか。

というわけで、まずは素材となる音をアップします。

(click↓して再生=18秒)
オリンピック実況中継放送(original)

実況アナウンサーはTBSの戸崎貴広さん。この方の声はうるさく感じないのですが、TVをつけた時にちょうど放送していたので実験材料に。

戸崎さんはデリケートなノドの持ち主なのでしょうか、声が枯れてますね。お疲れさまです…。

さてさてセンターキャンセルで戸崎アナの声はどこまで消えるか…。
次回へ続く。

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夏を涼しく過ごす為の音
2008 / 08 / 03 ( Sun )
擬音笛のひとつに赤子笛と呼ばれるものがあります。

先端(太くなっている方)に握り拳を当てて、小指から順に開いたり閉じたりする加減で音を調整します。

akagobue.jpg


入手したての頃は面白くて深夜の二時、三時に自宅でぷわぷわ鳴らしていました。しかし隣家の人たちは、うちに赤子どころか嫁さえいないことを知っているわけで、これはもしかするとタイヘンに不審がられるのではないか…と、そのことに気が付いたのは数日後。爾来ぴたっと自宅での試奏をヤメにしました。

以下の音は、寒い季節に東北の山中で録ったものです。ここは小さな山に人家数軒、その全戸ともに高齢化で街に降りてしまって無人。これを知っていたので練習場所に選んだのでした。

(click↓して再生=15秒)
夏と云えば怪談。


古来「深夜の山奥で赤ん坊の鳴き声が聞こえた…」という怖い話が日本各地に残っていますが、これだってもしかしたら、効果音屋が一人こっそり笛を吹いていたのかもしれません。
トランペッターが河原で基礎練習をやるように。

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擬音笛(牛笛)
2008 / 07 / 23 ( Wed )
おもに「生きもの」の鳴き声などを出すための擬音笛・効果笛と呼ばれる笛があります。歌舞伎の道具として発生したもののようです。ただ、私自身でその歴史をきちんと調べたことは無いので詳細不明。

昭和初期のラジオドラマ全盛期には100種類を超える擬音笛がNHKにあったと聞きます。実際には一つの笛でカッコウ・ふくろう…と複数の鳴き声を出せるのですが、それだけ頻繁に放送や舞台の現場で使われ、またこれらの笛を作る名人・職人さんが居たということなのでしょう。

私も、とんび笛・うぐいす笛・かっこう笛・ふくろう笛…など、この手の笛を(ほんのちょっとですが)持っています。鳥笛以外に、少し珍しい(?)ものもありまして、今日はその第一弾。

牛笛。

ushibue.jpg

こんな音がします。

(click↓して再生=14秒)
昨冬、山の中で笛の練習をしました。

吹き方によって、牛だけでなく豚の鳴き声も出ます。

迫力とリアリティ重視の昨今、もはやこれらの擬音笛を現場で使うことは難しいでしょう。
でも、アニメーションの効果音あるいはSEの素材として、あえてこの「ウソっぽい」音がマッチするジャンルもあるように思います。

若い世代のアニメーターさんなどが、こういう音を効果音としてうまく使ってくれると、音響効果の世界がもっと面白くなってくるだろうな〜といつも夢想しています。

変な効果笛、まだ他にもあります。その紹介はまたいずれ。

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セッカの鳴き声--中低域の補正--
2008 / 06 / 07 ( Sat )
前回、セッカの鳴き声録音から低音ノイズを除去。しかしそのせいでヘッドフォンから漏れてくる音のようなシャカシャカ・サウンドになっちゃいました。

ローカット(低域を切ること)でノイズを消すという手法は随分古くから行われていたようです。たとえば70年代に出版された、アマチュア生録マニア向けのHowto本にもすでにこのテクニックが出てきます。さらに、

「ノイズをカットしただけじゃ不十分だヨ。ここにせせらぎやさざ波の音を加えてみよう。グッとゴキゲンなサウンドになること間違いなし!」

などとも。雑音の除去で失われた低音を補う必要性についても触れられているわけです。ここで、あらたに加えるべき音として「せせらぎ・さざ波」が推奨されているのは、ヒーリング効果がアップすること以外にも理由がありそうです。

都市部近くで録った音というのは、低域をどれだけカットしても高い音域に「シャーっ」というノイズが残ってしまう。こういう時、小川の流れや静かな波の音は、うまい具合にこの「シャーっ」の部分をごまかしてくれる便利な音素材なんでしょう。

ただ、清流や波の音など別の具体音を持ってきて足す…というのは、もはや積極的な「演出」の分野に踏み込んでいます。失われた音域を補正し帯域バランスを整える作業としては明らかにやりすぎの感が否めません。

では何を足すか…。このような「補正用のサウンド」としては、セミや秋の虫が鳴いてしまっているものはもちろんですが、他の鳥が鳴いている録音も使いにくいと感じます。私のように野鳥の知識に浅い者だと、
「この鳥がこの季節にこの鳥の近くで鳴いているはずはない…」
という非常識な音を組み上げてしまう危険性もあるからです。

というわけで個人的にはこういう時、冬山で録った音などをMIXしています。できるだけ静かな、しかも中低域に適度な「サーっ」という自然のグランドノイズを含んだ音で、欠落した帯域を補えないか…と。

今回は、セッカ録音と同じ季節(ほぼ同じ時間帯)に録った比較的静かな里山の音を使ってみました。小さなスピーカーでも分かり易いように大きめのレベルで足しています。前回アップしたサンプルの冒頭部分(=録ったままの音)と、下のファイルの後半部分とを聴き較べてみてください。いかがでしょうか…。

(click↓して再生=16秒)
セッカの鳴き声_中低域の補正

いずれにせよ、あくまでもノイズレスな録り音を目指すことこそがフィールドレコーディングの正道。
撮影と録音を同時に行わねばならない、条件の厳しいロケ現場でもない限り、ポストプロダクションでのローカットや音質補正はやむえず行う小細工に過ぎない…と思っています。
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至近距離の音と遠景としての音
2008 / 05 / 30 ( Fri )
マイクを音源に近づけて録音することを「オンマイクで録る」、逆にマイクを音源から遠ざけた状態のことを「オフマイク」と言ったりします。当然、至近距離から録った方が音量も大きくクリアに録れますし、マイクを離せば離すほど音はボヤけて不鮮明なサウンドになります。

だったら「出来るだけオンマイクで録るべし。」となりそうですが、一概にそう言えないのがマイク録音のナヤマシイところであり、また面白いところでもあります。

この音を聴いてみてください。

(click↓して再生=10秒)
オンマイクでカエルの鳴き声

水田の畦道、枯れ草の下で鳴いているカエルを見つけまして、向こうからもこちらの姿が見えないのをこれ幸いと、鳴き声の主に15cmくらいまでマイクを近づけて録ったものです。

先日、シュレーゲルアオガエルの合唱音をアップしました。(08年5/19日の日記。)今日のものと聴き比べてみると、(おそらく)同じ種類のカエルの鳴き声なのに印象がずいぶん違うと思います。かなり音量を抑えたつもりですが、それでもオンマイクで録った鳴き声は「気持ちのいい音」とは言いにくい。ボリュームを少しずつ上げていくと、じきに「耳が痛い」感じがしてくると思います。

これは音の大きさだけの問題ではなく、オンとオフでは音質が大きく変わっていることも関係しているようなのです。直接音と反射音のバランスの違い…などというとハナシが小難しくなるので、おおざっぱに「響き」があるかないかの違いと言っても良いでしょう。

人が「心地よい」と感じるのは、離れたところから聞こえてくる、複雑な響きを含んだ音であることが多く、沖をゆく漁船の音であれ虫の音であれ遠景音として聴くことでこそ、そこにのんびりとした、あるいはシミジミとした情緒を見いだし得るのでしょう。涼やかな風鈴の音だって耳横5cmで延々と鳴らされたら、これはちょっとした拷問です。

さて。
マイクをどのくらい音源に近づけて録るか…。
もちろんそのセッティング方法はケースバイケースですが、これが録音の目的に応じておのずと決まる場合もあります。

目的1:そのまま聴いて気持ちの良い自然音を録りたい
目的2:研究材料として、あるいは効果音の単体素材として録りたい

1の場合にはその場でマイクとヘッドフォンを通して聴いてみて、もっとも心地よく感じるマイクセッティングを探ることになります。先日のシュレーゲル合唱団の録音や、森の響き・エコーをたっぷりと含んだ野鳥のコーラスなど、オフマイクで音風景全体を録る方法です。

しかし、2のような目的で録音する場合には上記のやり方だと問題が出てきます。
鳥の生態を研究している人たちは、録った音から後日さまざまな解析を行う必要が出てくるかもしれません。「地鳴き」と「さえずり」のピッチ(周波数)の差、あるいは声紋分析などなど。

(今日アップしたカエルの鳴き声のフォルマントをみてみると2kHz〜3kHzがかなり強く、これが「耳に痛く」聞こえる原因のようです…)
frog_analysis.jpg


この際、たくさんの種類の鳥の鳴き声が重なり合って、しかも深くエコーのかかった状態で録音されていると、この手の研究材料としてはまず使い物にならないはずです。クロツグミならクロツグミが、一羽の個体のみ鮮明に録れていることが望ましい。

これは音響効果の効果音素材として音を録る場合も同じです。響きの無い音にあとから残響を加えることは出来ます。しかし森のエコーがかかった鳥のコーラス録音から「響きだけ」を消すことは不可能で、こういう音を、たとえば見通しの良い開けた林を撮った映像シーンには使いにくいわけです。

というわけで、1の目的で録音をする場合はオフマイク、2の時にはできるだけオンマイク…というのが(かなり乱暴ですが…)マイクセッティングのひとつの目安となります。とはいえ例外はいっぱいありマス。この例外については「清流の音を録る」例などを挙げつつ、いずれまた実験してみましょー。

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